1年ほど前、「国立大学の学費を私立大学並みに引き上げよう」という声が文部科学省から出て、国立大学志望の受験生やその親に大きな衝撃を与えました。
幸い今回は提言だけで具体化はしなかったようですが、財政赤字が減らない状況の下、このような動きは必ずまた出てくるでしょう。
そうなれば、国立大学の学費シミュレーションは今とは全く違うものとなるでしょう。
なかなか収入が上がらない中で、家計に占める学費の割合が、今後大きくなっていくことは確実です。
日本では低金利状態がもう20年以上続いています。先進国の中で日本だけが異常ともいえるこの状況は、先行き不透明感はあるものの、政府が景気回復を優先している現状ではまだまだ続いていくと思われます。
所得が増えない中、学資を貯蓄により賄おうとしても、利息が思うように付かないという苦しい状況が今後も続きます。
そんな低金利のなか、生命保険会社は、「学資保険」契約者のニーズに応え、少しでも返戻率を上げるための工夫を凝らした商品を提供してくれています。
そのような工夫の中に「保険料の一括払い」というものがあります。上手に使うことで返戻率を上げることにつながるため、契約者にとっては積極的に利用したい機能といえます。
しかし、「保険料の一括払い」は魅力的なメリットがあるとともに、気を付けなければいけないデメリットもいくつか存在します。
今回は、その様なポイントの中で「保険料を一括払いする場合に発生するメリットとデメリット』についてご説明させていただきたいと思います。
目次
1 保険料支払について
学資保険の支払については、加入時にあらかじめ「保険料払込期間」と「支払方法」の契約を行います。
「保険料払込期間」はお子様がいくつになるまで支払いを続けるのかという期間を、「支払方法」は保険料を支払う方法を決定します。
どのような進路を進ませたいのか、私立か公立か、受験はいつからさせるのか、など色々と検討して決定しましょう。
1-1 保険料払込期間はどのように決められる?
保険料払込期間には、いくつか選択肢があります。
契約しようとする学資保険によって異なりますので、しっかりと確認が必要ですが、通常最短5年から支払開始直前まで、複数の選択肢がある場合がほとんどです。
期間を長くすれば、1回あたりの支払金額は小さくなりますが、総支払額は大きくなります。反対に支払期間が短いと1回あたりの負担は大きいですが総額は小さくなるように設計されています。
ここでは、「明治安田生命」の「積立学資」という商品でシミュレーションした結果を参考にして、「払込期間」の違いにより、月々の保険料がどれだけ変わるのかをご説明しようと思います。この商品では、払い込み期間は、5年、10歳、15歳、そして後述する全期前納払いの4種類から選択できます。
(シミュレーションの条件は、保険契約者父親30歳、子供0歳性別男、お受取総額200万円で試算しました。)
保険料払込期間 5年間の場合、月々の支払額 27,569 円 TOTAL 1,654,140円
返戻率 = 2,000,000円 ÷ 1,654,140円 × 100 = 120.9%
15歳までの場合、月々の支払額 9,867円 TOTAL 1,776,060円
返戻率 = 2,000,000円 ÷ 1,776,060円 × 100 = 112.6%
となります。支払う保険料の差額はTOTALで121,920円となり、それが返戻率の差となります。
このように、家計のバランスを考慮しながら、可能な限り保険料払込期間を短く設定することが返戻率アップに繋がるのです。
ただし、学資保険の契約内容は期間途中での変更は難しいので、将来を見越して無理のない契約をすることが必要です。
たとえば、「ニッセイの学資保険」の約款上では、「ご契約時に選択した型(こども祝金の有無)を、保険期間中に変更することはできません。」と明記されています。
今後、経済情勢の変化によって支払いが難しくなるケースが続出し、社会問題にでもなれば国や保険会社の対応も可能性としてはありますが、現状ではそのような場合の救済処置は無いので、契約時には慎重な検討が必要です。
支払いが続けられずに折角の学資保険が失効などということにならぬよう、しっかりと検討することが必要です。
1-2 保険料の支払い方法はどのような形態がある?
保険料の支払い方法についても、各社各商品によって違いがありますので、確認が必要です。
一般的には月払い、半年払い、年払い、そして一括払いなどがあります。商品によっては取扱いのない支払方法もあります。また後でご説明しますが、一括払いにも二つの方法があります。
「一時払」い「全期前納」です。契約時に保険料を一括で払ってしまう、という点では一見同じように見えますが、税法上や保険の取り扱い上に違いが出てくるので注意が必要です。
1-3 それぞれの割引率の比較を概算!
実際の商品のシミュレーションではありませんが、概算で割引率がわかる数字がありましたので、ご紹介します。
試算の条件
- 保険商品:学資保険
- 満期学資金:200万円
- 保険期間:17歳
- 契約者:男性(39歳)
- 子供:男性(0歳)
払方 | 月払い | 半年払い | 年払い | 全期前納 | 一時払い |
保険料 | 9,120円 | 54,540円 | 108,620円 | 1,817,321円 | 1,774,340円 |
保険料累計 | 1,860,480円 | 1,854,360円 | 1,846,540円 | 1,817,321円 | 1,774,340円 |
割引率 | 100% | 99.6% | 99.2% | 97.6% | 95.3% |
このように、金額は月払い>半年払い>年払い>全期前納>一時払いの順となり、全期前納と一時払いの間にはやや大きな差があることがわかります。
1-4 全期前納と一時払いの仕組みの違い
一見すると、保険料を一括で支払うという点では同じように見える全期前納と一時払ですが、割引き率の差が出るのは二つの仕組みに違いがあるからです。その違いについて簡単にご説明いたします。
① 一時払
文字通り、保険料全額の支払いを契約時に行うものです。保険会社は全てを保険料として受け取ります。受取った保険料は全額保険会社の収入となります。このため高い割引率を設定しているのです。
② 前期全納
基本的には、契約時に「年払い」を基に計算した保険料全額を保険会社に支払います。保険会社はそのうち該当する年度分の保険料を受け取り、残りは預かり金とします。
このため支払いした保険料のすべてがその年分の保険会社の収入になる訳ではありません。但し保険会社としては、預かった保険料は長期的な預り金として運用ができますので、その分支払保険料の割引ができるという訳です。
預けている保険料ですが、必要になったからと言って途中で一部を引き出すということはできません。預けていると言っても目に見えるような利息は付きませんし使うことはできないので、実質的には支払ったような気分になります。
1-5 「一時払い」とそれ以外を選択した場合に発生する問題
① 払込免除特則
学資保険契約時に払込免除特則に加入していることが前提となります。
「払込免除特則」とは、「契約者が亡くなった場合、それ以後の保険料の支払いは免除される」という学資保険特有の制度です。
この低金利の状況において、積立定期預金ではなく学資保険を選択される方が多いのは、契約者に万一のことがあってもそれ以降の保険料支払いが免除されるという、この特則があるからではないでしょうか。
学資保険の中には、「払込免除特則」が無い、または特約で、という商品もあります。
返戻率を上げるという目的だとは思いますが、学資保険の目玉ともいえる制度が「特約」になっているのは個人的にはどうなんだろうと思います。
では、この「払込免除特則」が支払制度の違いによって、どのようになるかを見ていきましょう。
「年払い」「半年払い」『月払い」は当然「払込免除特則」が適用されます。それ以降の保険料の支払いは免除されます。
「一時払い」の場合は、保険料を契約時にすべて払い込んで保険料に支払いは終了しています。このため、「払込免除特則」の適用はありません。
「全期前納」の場合はどうでしょうか。この場合は、保険会社は、支払期限以降の保険料は預かっているだけですので、支払い免除の対象になります。
そこで支払った分の保険料以外は戻ってくることになります。
② 生命保険料控除の取り扱いの違い
サラリーマンであれば年末調整で、自営業者であれば確定申告の際に、所得から様々な金額を差し引く「控除」という制度があります。
その中の一つが「生命保険料控除」です。学資保険も生命保険の一種なので、生命保険料控除の対象となります。
ここでは、生命保険料控除の詳しい仕組みにまで深く触れませんが、これから学資保険に加入される方は、支払った保険料を限度とし、他の死亡保険などと合わせて、最大4万円の控除が受けられます。
(介護保険、年金保険は、別口で4万円ずつ、最大12円の控除が受けられます。(例年11月ぐらいに保険会社から「生命保険料控除証明書」が送られてきますので、大切に保管してください。)
「年払い」「半年払い」「月払い」は当然毎年適用されます。ただし「学資保険」単独ではないということに注意してください。
また、「全期前納」の場合も、保険料の納付はあくまでも毎年ですので「年払い」「半年払い」「月払い」と同様毎年適用されることになります。
さて、問題は「一時払」の場合です。「一時払」の場合は、初めに全部支払っているので、生命保険料控除は、1回しか受けられません。
③ 中途解約した場合の違い
学資保険は長期にわたる保険です。長い人生色々あります。不幸にして保険契約を解約せざるを得ない事態に陥ることがあるかもしれません。
また逆に、今後発生するかもしれない金利上昇局面で積極的に高金利の商品に乗り換えようとするケースが出てくるかもしれません。
その場合、戻ってくるお金「解約返戻金」が、「一時払」と「全期前納」で異なってきます。
「一時払」の場合、全額が解約返戻金になります。解約期間が短いと、元本割れになる可能性がありますが、逆に期間が長いと上回る場合もあります。
(参考)解約返戻金の計算例
- 契約者:30歳男性
- 子ども:0歳
- 保険料:13,030円(月々) / 2,525,615円(一括)
- 保険料払込期間:18年
月払い | 一括 | |||
年数 | 支払保険料 | 解約返戻金 | 支払保険料 | 解約返戻金 |
1年目 | 156,360 | 116,770 | 2,525,615 | 2,501,122 |
2年目 | 312,720 | 271,480 | 2,525,615 | 2,522,189 |
3年目 | 465,440 | 428,080 | 2,525,615 | 2,544,068 |
4年目 | 625,440 | 586,580 | 2,525,615 | (以下略) |
5年目 | 781,800 | 747,030 | 2,525,615 | |
6年目 | 938,160 | 909,430 | 2,525,615 | |
7年目 | 1,094,520 | 107,3810 | 2,525,615 | |
8年目 | 1,250,880 | 1,240,210 | 2,525,615 | |
9年目 | 1,407,240 | 1,408,630 | 2,525,615 |
月払いでは、9年目で支払保険料<解約返戻金ですが、一時払いでは3年で上回ることができます。
「全期前納」の場合、保険料充当部分で解約返戻金を計算し、預り金部分はそのまま戻ってきます。
「年払い」「半年払い」「月払い」については、前納している保険料自体が無いので、全額が解約返戻金になります。
④ 生命保険料控除に関するデメリット
サラリーマンの年末調整は会社の総務が手続きをやってくれるところが多く、自営業者のような確定申告ではないので、あまり実感がないかもしれませんが、「学資保険」の加入していると生命保険料控除が受けられる場合があるというのは上でも書きました。
一時払いをすると、生命保険料控除が加入時の1回しか受けられない、というのがデメリットでしょうか。
ただ、生命保険料控除については、月額保険料3,333円以上の保険に加入していれば、それで控除の上限40,000円に達します。