「学資保険は、『利率が良い』と言われています。しかしそれは本当でしょうか?」というテーマで今回はレポートします。
景気動向が不透明で所得の大幅なアップも見込めない今、お子様の進学用の資金をどのように準備したら良いのか、非常に悩ましいところでしょう。
低金利の時には固定金利で長期の貯蓄を選択するのはリスクが高いと言われています。しかし日本は低金利政策がもう20年近く続いています。上昇する気配すら無いどころか「マイナス金利」などという想像もできなかったことが現実に起こっています。
お子様の成長は金利が上昇するまで待ってくれません。親としては、現在選択できるものの中で一番有利なものを選ぶしかないというのが現実です。
そこで、今回は「積立定期預金」、「個人向け国債」、「低解約返戻金型終身保険」、「積立投資信託」の4つについて学資保険との比較を行い、さらにそれぞれのメリット、デメリットを検証してみたいと思います。
当初はMMFも対象に加えようと思っていましたが、日銀のマイナス金利の影響をうけて現在は新規の預け入れ中止、既存の口座も解約という流れになっていることが解ったため、今回は対象から外しました。
目次
1 「満期返戻率」「利率」「利廻り」
各金融商品を比較する方法をご説明する前に、上記3つの用語を簡単に説明しておこうと思います。
保険商品で良く使われるのが「満期返戻率」です。学資保険のパンフレットやネットのシミュレーションで調べると「満期返戻率」はすぐに知ることができます。しかし「利率」や「利廻り」が記載されているケースは少ないのではないでしょうか。
一方銀行預金や国債は「利率」で表示されているので、このままでは単純に比較することはできません。比較出来るようにするためにはひと工夫が必要です。そこで「年利」という指標を使いたいと思います。
1-1 「満期返戻率」
保険の加入を考えている方には説明の必要もないかもしれませんが、改めて触れておきます。返戻率の市計算式を提示しておきます。
返戻率≒受取学資金総額÷払込保険料総額×100小数点第2位以下切り捨て
満期返戻率が100を上回っていれば利益が出ていることを現しています。
「満期返戻率」は保険を選ぶ場合の重要な判断基準ではありますが、それだけを見て判断するのは不十分ではないかと思います。満期返戻金の欠点は、その数値に「期間」というものが反映されないことです。
例を挙げます。次のような2つのケースを考えてください。
- 毎月1万円ずつ5年積立、満期保険金66万円~満期返戻率110%
- 毎月1万円ずつ5年積立、5年据え置き、満期返戻金66万円~満期返戻率110%
どちらも満期返戻率は110%です。しかし①のほうが保険金を受け取るまでの期間が短いので、有利な運用である、ということはご理解いただけると思います。
しかし、もし上記の例のように単純なケースでない場合、たとえば「祝い金有」と「祝い金無し」のプランを比較する場合などは、満期返戻率だけではどちらが有利かすぐには判断が出来ないとおもいます。
学資保険は契約内容によって払込期間、据置き期間、受け取り時期や方法などが異なっています。満期返戻率だけでは、どの内容が一番有利か判断できない、ということをご確認ください。
1-2 「利率」
利率とは、「元本に対する1年あたりの利息の割合」のことです。
なお、銀行の店頭で表示されている利率はすべて年利1年預けた場合と仮定して計算 で統一されています。以前は「月利○%」などという表示の仕方もありました。
さらに「日歩○銭」などという表示も。金を借りる方が違いをよく理解せずあとで大変なことに、などということも良くありました。
1-3 「利回り」
混同されることも多いのですが、「利率」と「利回り」は違うものです。「利回り」は「投資した資金に対しての収益を1年あたりの割合で表したもの」です。
一括で預けて一括で受け取る場合の式は下記のとおりです。
利回り=収益合計÷預入年数/元本×100
学資保険や積立定期預金のように、毎月積み立てる場合は計算式が複雑になるので、計算ができるサイトのリンクを貼っておきます。
http://ma-bank.net/tool/hoken_nenri/
上記のサイトを利用して、先ほどの例の「利回り」を計算してみましょう。
- 毎月1万円ずつ5年積立、満期保険金66万円 利回り 3.85%
- 毎月1万円ずつ5年積立、5年据え置き、満期返戻金66万円 1.27%
「満期返戻率」は同じですが「年利1年に引き直した利回り 」は倍以上違うことがわかります。また、利率と利回りについての詳細は下記のリンクをご参照してください。
http://www.woman110.com/200807/no95.html
2 積立定期預金との比較
ではまず始めに、銀行の取扱い商品「積立定期預金」との比較をしてみたいと思います。
2-1 積立定期預金とは?
積立定期預金とは、普通預金から毎月決まった日、決まった金額を自動振替などで定期預金として積立てていく預金です。自動振替だけでなく、窓口での入金が可能な商品もあります。積立期間は自由に決めることができ、最長20年まで可能な銀行もあります。
また、積立開始日から一定期間経てば積み立てた一部を払い出すことも可能です。中途解約ではなく定期預金金利が適用されます。
2-2 学資保険との比較する際の条件について
学資保険との比較に際しては、次の点をご確認ください。
①預金の金利には現在20.315%所得税15.315%+住民税5%、0.315%が東日本の復興のため増税になっています。 の税金が源泉徴収されますので、積立定期預金については税引後の数字で算出しています。
②学資保険については一時所得になり、課税されないのが一般的なので、税引前の数字を算出しています。
※一時所得の金額=受取保険金-(支払保険料総額―剰余金)-50万円(満たない場合にはその金額)
課税の対象となる金額=一時所得の金額 × 1/2となります。学資保険など、分割で受け取る場合現状の満期返戻率では、一時所得として課税されることはまずありません。
③積立定期預金の利回りおよび満期金の計算は下記の2サイトを参考にしました。
2-3 学資保険大学 合格後1~2回受け取るタイプ との比較
まず、比較的保険内容が単純な、フコク生命「みらいのつばさジャンプ型」・ソニー生命「スクエアⅢ型」・JPかんぽ生命「学資保険はじめのかんぽ」の3商品と、積立定期預金の比較をしてみたいと思います。
次に比較対象の積立定期預金についてです。銀行によって積立定期預金の金利は異なるので、下記のサイトを参考にしました。
http://www.woman110.com/200807/
銀行により、かなりの上下があることがわかります。ここでは金利第1位にランキングされている「静岡銀行」の0.220%と、現状で一般的な金利と言える0.010%みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、ゆうちょ銀行 の二つの場合で年利1年の利回り 、満期返戻率を算出しました。
- 学資保険、条件・払込期間17~18年 保険満期日22年
- 積立定期、条件・積立期間17年 満期22年 税引き後の金額を算出
積立額についてですが、定期預金には預入単位があるので、最も近い金額で算出してみました。
利率 | 利回り | 満期返戻率 | 金利上昇時 | |
フコク生命「みらいのつばさ」ジャンプ型 | ― | 0.83% | 110.1% | 無 |
ソニー生命スクエアⅢ型 | - | 0.85% | 110.4% | 利差配当金有 |
JPかんぽ生命 | ― | 0.4% | 103.8% | 利差配当金有 |
静岡銀行積立定期預金 | 0.220% | 0.13% | 101.59% | 利率変更 |
一般銀行積立定期預金 | 0.010% | 0% | 100.1 % | 利率変更 |
2-4 比較した結果について
2-4-1 利回りの比較
利回りだけを比較すると、全ての学資保険が積立定期預金を上回ることが確認されました。
もともと金融の世界では長期金利>短期金利というのが一般的ですので、長期金融商品である保険の利率が、短期金融商品である定期預金を上回るのは当たり前のことです。
しかし改めて利率や利回りを比べてみると、保険商品はほぼ課税されないということもあり、利率だけでなく税制上も恵まれていると実感できます。
預金の利回りは税引き後の数字になるので、さらに不利になります。しかも源泉徴収される税率が現在20%から20.315%に上がっているので、なお一層拍車をかけています。
しかしそういう両者の違いを考慮しても、一般的な積立定期預金の「20年貯蓄しても利回りが0%」というのはやはり異常な低金利であると思います。
2-4-2 金利上昇時
今後金利上昇局面になった場合、積立定期預金は預入時の金利がそれぞれに適用されるので、即その恩恵を受けられることになります。
また預入から1年以上経っている部分については定期預金金利が適用される商品がほとんどだと思われるので、中途解約してもそれほど損にはならないと考えられます。少なくても元金部分は保証されます。
一方学資保険のほうですが、フコク生命「みらいのつばさ」に加入した場合、利差配当金が無いのでどんなに金利が上昇しても受取金額に変わりはありません。
また一旦中途解約して加入しなおそうとしても、お子様の年齢によって加入できない場合がほとんどでしょうし、中途解約はかなりの損になるので現実的ではないでしょう。結果として、金利が上昇した場合にはその恩恵がない保険商品だと言えるでしょう。
しかし、利差配当金がある学資保険であれば、問題は解決できるとおもいます。そうなればやはり学資保険のほうが有利と言えるでしょう。
2-4-3 会社破たん時の救済策の違い
銀行の場合は預金者一人あたりにつき1千万円までは元本保証されています定期性預金の場合 。
一方保険会社の場合にも救済措置はありますが、貯蓄性保険は不利となるケースがあるので要注意です。加入時に保険会社の健全性を良く確認しておきましょう。
2-4-4 総合判断
積立定期預金には加入者死亡特約などはありません。また学資保険の満期返戻金は一時所得になるので、税制上も優遇されています。
現状では日銀の低金利政策が劇的に変更される確率は少ないと思われます。これらのことを総合的に判断すると、残念ながら今積立定期預金を選択するメリットはほとんどないと考えられます。
3 個人向け国債との比較
現在、日銀のマイナス金利政策の影響によりマ既発債でマイナス利回りを示現することもある国債ですが、国の債権として最も信用が高くしかも元本保証。
少額からでも購入できるという気軽さから、学資保険の代替になりうる可能性もあるのではないかということで、取り上げてみました。
3-1 個人向け国債とは
個人が国債を買いやすくするために、購入単位を少額にしたものです。
商品内容としては半年毎に利率が変わる「変動10年」、利率が満期まで変わらない「固定5年」、「固定3年」の3種類があります。積立定期預金と違い普通預金口座からの自動振り替えの制度はありません。
また、購入期間は月ごとに決められています。たとえば、8月15日発行日の国債購入期間は7日~29日となっています。
3-2 「変動10年」タイプについて
現在、学資保険の代替として考えられるのは「変動10年タイプ」でしょう。半年ごとに金利を見直すため、金利上昇時はその恩恵を受けることができます。
また現在マイナス金利の影響で取り扱い停止になる金融商品もあるのですが、個人向け国債には3年物、5年物、10年物いずれも「0.05%」という最低保証金利が決められているので、これ以上低い金利になることはありません。
法改正がなされれば別ですが 現状では一般的な積立定期預金よりも高い水準となっています。
国債発行から1年以上経てば中途解約も可能で、後で述べる「低解約返戻金型終身保険」積立期間中の解約のように大幅な元本割れを起こすこともありません。
その場合の計算方法は
額面金額+経過利子相当額-中途換金調整額直前2回分の各利子[税引前]相当額×0.79685
となります。
なお、現在は新発債のみの購入が可能で、既発債を取り扱っている窓口は無くなったようです。既発債も利率見直しと価格の上昇で「マイナス利回り」となっているものもあり、購入するメリットはほとんど無いと思われます。