では、具体的にこの3つのパターンで契約した場合、税金がどのように変化するのかを比べてみたいと思います。
目次
1-4-1 Aパターンの場合
今回の試算では以下のような状況を想定します。
契約者(保険料負担者):お父さん
受取人:お父さん
保険料総額:280万
学資金総額:300万の一時受取り
お父さんが保険料を支払い、その保険の満期金などをお父さん自身が受け取る場合、これは自身の所得の一部と考えられ、所得税の対象になります。
そして学資金を一時金で受け取る場合は一時所得となるため、以下のような計算となります。
(学資金総額300万-保険料総額280万-特別控除50万)×1/2
保険料総額よりも学資金総額の方が20万円多くなりますが、50万円の特別控除額があるため結果的にマイナスとなり、非課税になります。
既にご紹介している通り、一時所得としてカウントされる場合は、よほど高額な学資金であったりしない限り、課税されることはありません。
1-4-2 Bパターンの場合
契約者(保険料負担者):お父さん
受取人:お父さん
保険料総額:280万
学資金総額:300万の75万 × 4年間の学資年金を受取る
お父さんが保険料を支払い、その保険の満期金などをお父さん自身が受け取るため、ここまではAパターンと同じく所得税の対象になります。
違ってくるのは、学資金を年金として受け取るという点です。その場合は雑所得とみなされるため、以下の計算式によって求められます。
学資年金額 -(保険料総額 ÷ 年金受取回数)= 雑所得
= 年金年額 -(年金年額 × 保険料総額 ÷ 学資金総額)
= 学資年金75万 -(学資年金75万 × 保険料総額280万 ÷ 学資金総額300万)
≒ 51,000円
雑所得として計上された51,000円が所得に加算され、所得税や住民税がかかってきます。
仮に所得税率10%、住民税率10%として概算した場合、
雑所得51,000円×(所得税率10%+住民税率10%) = 10,200円
と1万円以上の税金がかかります。雑所得として考える場合、税金がかかる可能性が高いため、できることであれば祝い金付きのものを代用した方がよいでしょう。
1-4-3 Cパターンの場合
契約者(保険料負担者):お父さん
受取人:お子さん
保険料総額:280万
学資金総額:300万の一時受取
お父さんが保険料を支払い、保険料を負担していないお母さんやお子さんが満期保険金を受け取った場合の計算です。
この場合、お父さんからお金をもらったのと同様に扱われるため贈与税の対象となるんでしたよね。
贈与税はまず、贈与された額から基礎控除である110万円を引き、残額を速算表にあてはめて税率を導きます。
今回のケースでは以下のような計算となります。
贈与額300万 – 基礎控除110万 = 190万
贈与税の速算表
控除された後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ‐ |
200万円以上 ~ 300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円以上 ~ 400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円以上 ~ 600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円以上 ~ 1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円以上 | 50% | 225万円 |
この金額を速算表に当てはめて計算すると、
190万円×10%=19万円
19万円が贈与税として課税の対象になることがわかります。
この場合、300万の学資金から19万の税金を納める計算になるので、手元には281万円しか残らないことになります。
これでは保険料総額280万から増える金額は1万円と、長い期間にわたって学資保険を契約した意味がほとんどありませんよね。
1-6-1 まとめ:学資保険に加入する時の税金の注意点
ここまでのところでご紹介してきたポイントをまとめましょう。税金がかかってくる可能性が高いのは以下の場合です。
- 契約者(保険料負担者)≠受取人となっている
- 積立金額が大きい場合
- 学資年金で受け取る場合
先ほどの章でご紹介したように、所得税対象の場合に比べ、贈与税の対象となるケースは税負担がかなり大きくなります。先程ご紹介した方法を使って、なるべく回避するのがオススメです。
この章の中ほどで、課税を回避するために契約を分割するという方法もご紹介しました。
その発展版として、金額を下げた学資保険を複数契約し、満期保険金を受け取るタイミングをズラすというテクニックもあります。
つまり、ある年に一括で300万円受け取ると課税対象になってしまう、という場合であれば、150万円を受け取れる学資保険に2つ加入し、受け取る年を1年ほど前後させるのです。
このようにすれば、1年のうちに受け取る金額は150万円と半額になり、課税を避けることができるでしょう。
高額な学資保険に加入したいと考えている場合には非常に有効な方法ですが、複数の保険に加入することによって、いざという時にお金が準備できなければ本末転倒です。
どのタイミングでお金が必要になるのか、どれぐらいの課税額を回避できるのかなどをきちんと把握した上で学資の準備を進めたいところです。
一方、学資保険の契約形態を「契約者(保険料負担者) = 受取人にする」、「学資金は年金受取ではなく一時受取にする」というのは、特別な理由がない限り実施した方が良いでしょう。
ちなみに、パターンA,B,Cどちらの場合あってでも、納税が必要になるケースでは、年末調整ではなく確定申告を行う必要があります。
その確定申告はどのように行えば良いのでしょうか。その方法などについてここからの章でご紹介していきたいと思います。
2 学資保険の税金を納めるためには確定申告が必要!
保険金の受け取りに所得税や贈与税の対象となってしまう時は、確定申告を行う必要があります。
そのような場合には通常、保険会社から確定申告が必要な旨が記された通知書が届くので把握しやすいでしょう。
もし、面倒だからと確定申告をしなかったとしたら、どのようになってしまうのでしょうか。
2-1 確定申告しなかった場合
確定申告をしなかった場合、追徴課税という制度により「元々払うべきだった税金」にプラスして「税を滞納した分の課税」が上乗せされた金額を納める必要があります。
学資保険の保険金を受け取ったことは、税務署に対して保険会社が報告することになっています。そのため、面倒に感じるかもしれませんが、必ず確定申告しましょう。
ご紹介してきた通り、同じ学資保険に契約していても、契約者や受取人の設定といった加入方法を少し工夫するだけで、支払う税金を最小限に抑えることができます。
学資保険の主たる目的は「教育費の貯蓄」です。なるべく無駄がないように、学資保険に加入する時点で逆算して考えておいた方が良いでしょう。
では、確定申告をする必要が生じた場合、どのようにすれば良いのでしょうか。
2-2 確定申告の方法
確定申告は、以下の期間のうちに行う必要があります。
- 所得税:保険金を受け取った翌年の2月16日~3月15日まで
- 贈与税:保険金を受け取った翌年の2月1日~3月15日まで
この期間は自営業の方の確定申告や、高額な医療費がかかった方の医療費控除の受付期間でもあるため、税務署が非常に混雑することが予想されます。
なるべく余裕を持って税務署に行くことをお勧めします。
確定申告方法については簡単にご紹介します。必要になる書類は以下の通りです。
- 確定申告書
- 源泉徴収票
- 保険会社から受け取った支払通知書
確定申告書は、国税庁のサイト内の確定申告書等作成コーナーで、ご自身で作成する必要があります。
用意した必要書類と印鑑を持参して管轄の税務署までいくか、税務署に当てて宛に郵送すれば完了となります。
かなりざっくりとした説明となりますが、不明点については最寄りの税務署に確認するのがもっとも安心でしょう。
繁忙期などを避ければ、時間をとって親切に教えてくれることが多いのでおすすめです。
3 学資保険は所得控除が適用され税金が安くなる
ここまでのところでは学資保険で受け取った金額で税金がかかってしま場合があるということを伝えしてきました。
しかしその反対に、学資保険で支払った保険料は、所得控除の対象となり、税金を抑えることができるという可能性もあるのです。
具体的にどの程度の金額を安くすることができるかと言うと、年収などの条件によって変動はありますが、年収300 ~ 400万円程度であれば年間約5,000円程度となります。
そこまで大きな金額ではありませんが、学資保険は長期の契約となるため軽視はできません。18年間の契約であれば、総額は約9万円にもなるのです。
税金の控除には様々な種類があり、盗難や災害の被害を受けた場合に対象となる控除や、高額な医療費が掛かった場合に適用される控除などがあります。
その中で学資保険は、「生命保険料控除」という分類の控除となります。詳しく見ていきましょう。
3-1 生命保険料控除3つの枠
生命保険料控除は、保険の料金を支払った金額に対して受けることができる控除です。保険の種類にに応じて、合計3つの枠があり、それぞれの枠ごとに、支払った保険料額に応じて最高4万円までの控除を受けることができます。
したがって、3枠合計で最大12万円の控除を受けられる可能性があるのです。
控除枠 | 対象となる保険の種類 |
一般生命保険料控除 | 死亡保険、養老保険、収入保障保険、学資保険など |
介護医療保険料控除 | 医療保険、がん保険、介護保険など |
個人年金保険料控除 | 個人年金保険など |
学資保険は上の表の中の「一般生命保険料控除」という枠にカウントされます
その控除額はその年の間に支払った保険料の総額をもとに算出されます。「総額」というのは、学資保険以外の保険料も合算されるという意味です。
学資保険が該当する「一般生命保険料控除」の枠には死亡保険なども含まれます。そのため死亡保険にも加入しているのであれば、その保険料も合わせて計算する必要があるのです。
死亡保険に年間8万円以上の保険料を支払っていた場合は、既に控除枠は一杯になっている状態ですので、控除を受けることはできません。
この具体的な計算方法などについては、こちらの記事で詳しくご紹介しています。算出方法や生命保険控除の扱いなどについてさらに詳しく確認しておきたいという方はぜひチェックしてみてください。
最後に、この控除を受けるために必要な手続きの方法についてご紹介しておきたいと思います。
3-3 税金の控除を受けるにはどんな手続きが必要?
控除手続きのためには、契約している保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」が必要になります。
この書類は毎年10月頃から年末までの間に送られてきますので、間違えて捨ててしまわないように、その時期は郵便物を気をつけてチェックしておきたいですね。
万が一なくしてしまったり、捨ててしまったりした場合であっても、保険会社に問い合わせれば再発行してもらうことができます。
ここから、会社員・公務員の方と自営業の方とで手続きが変わってきます。
会社員や公務員の方であれば、自社の総務部など、年末調整を担当している部署に提出するだけで完了となります。
後の煩雑な処理は担当部署が代行してくれる場合がほとんどですが、会社によっては申告書の記入を求められる場合もあります。
会社によってフォーマットは異なりますが、基本的に確定申告時の手続き方法と同じようなものが多いようです。
自営業の方は、確定申告の際に合わせて申告することができます。この点については先ほどご紹介した記事で詳しくご紹介していますので、さらに詳しく調べたいという方はぜひチェックしてみてください。
学資保険と税金についてのまとめ
いかがだったでしょうか。基本的には税金がかかってこない上に、保険料の控除を受けることもできる学資保険。
また、契約前であれば税金がかからないように、受け取り方を工夫することができます。
今回の記事を読んで、税金がかかる方法で契約しようとしていらっしゃった方は、ご紹介してきたテクニックを使って税金がかからないように工夫していただくとよいでしょう。
学資保険はあくまでも、お子さんの将来の教育資金を貯蓄を目的として契約するものです。無駄な出費をなるべく避けつつ、活用していただければと思います。